SATO Wataru Laboratory
表情コミュニケーション概論
(佐藤弥:心理学概論)
表情は,感情コミュニケーションのための重要なメディアである.
表情によるコミュニケーションの基本過程は,二者の間で,一方が表情を表出し,他方がそれを認識するものと言える.
本稿はこの枠組みを用いて,表情の表出と認識について研究を概観する.
表情表出に関して,特定カテゴリの基本感情(例えば恐怖や幸福)が喚起されたとき,特定の表情が表出されることが示されている.
ただ,基本感情ではなく,その構成要素である情報処理の成分を反映する(例えば恐怖表情の眉の上昇は新奇性処理の結果)との指摘もある.
感情よりも社会的コミュニケーション動機を強く反映する(例えば笑顔は幸福感情よりも「友達になりたい」という社会的動機に基づく)という提案もある.
表情には,自発的な表出だけでなく,意図的なものもあり,これらは空間的・時間的なパタンや神経基盤が異なることが示されている.
表情の表出は,感情の結果であるだけでなく,原因となることも示されている.
基本感情の表情は,観察者によってかなり正確にその感情カテゴリが認識されることが示されている.
ただ,表情の認識は第一義的には次元(快-不快と睡眠-覚醒)の判断に基づくとの指摘もある.
表情から社会的メッセージや行動傾向が認識されることも示されている.
表情認識の過程の詳細は不明だが,視覚処理,自身の感情や表情状態の参照,文脈の統合といった複数の過程が関与していることが示唆される.
表情認識として,観察者に喚起される反応(感情・表情模倣・行動など)も含められるかもしれない.
表情の処理はすばやく意識前の段階で遂行される.
表情認識には複数の脳部位が関与している.
まとめると,決着のついていない問題が多いものの,感情などが表情の表出を引き起こし,その表情が他者に認識されることが示される.
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